この記事でわかること
- 大家が入居者の残置物を勝手に処分できない理由がわかる
- 相続人が見つからない、動かない場合にどう進めるかがわかる
- 契約書に残置物の特約があっても、そのまま使えるとは限らないことがわかる
- 空室期間を短くするための、現実的な順番がわかる
入居者が部屋で亡くなり、室内に家財がそのまま残っている。相続人と連絡が取れない、あるいは「関わりたくない」と言われた。家賃は入らないのに部屋は使えない。
貸主にとっては、1日ごとに損失が増えていく状況です。
先に結論を言います。大家が入居者の残置物を独断で処分することはできません。部屋の中の物は亡くなった方の財産であり、相続人に引き継がれているためです。処分すれば、後から損害賠償を請求される可能性があります。
では待つしかないのかというと、そうではありません。相続人から書面で同意を取るか、相続人が誰もいない場合の法的手続きに入るか、進め方は決まっています。順番を知っていれば、空室期間はかなり短くできます。

なぜ大家は残置物を処分できないのか
賃貸借契約は、借りていた人が亡くなっても終了しません。部屋を借りる権利は相続財産として相続人に引き継がれます。
つまり、亡くなった時点で、契約上の借主は相続人に変わっています。室内の家財も相続人の所有物です。
大家が独断で処分すると、他人の財産を勝手に処分したことになります。金銭的価値が低い物であっても、思い出の品や現金・通帳が混ざっていた場合、争いになります。
急いでいても、ここは飛ばせません。手順を踏んだほうが、結果的に早く終わります。
進め方は3つに分かれる
相続人の状況によって、取るべき道が変わります。
| 状況 | 進め方 | 目安の期間 |
|---|---|---|
| 相続人と連絡が取れ、協力的 | 書面で同意を取り、片付けてもらう | 1〜2ヶ月 |
| 相続人はいるが、動かない・拒否する | 契約解除の手続きを進め、明渡しを求める | 数ヶ月 |
| 相続人がいない、全員が放棄した | 家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる | 半年〜1年 |
上から順に、時間も費用もかかるようになります。だからまず相続人を探して連絡を取るのが最短です。
① 相続人と連絡が取れる場合
もっとも早く終わります。やることは3つです。
相続人を確定する
連絡先が分かっていても、その人が法律上の相続人とは限りません。配偶者、子、親、兄弟姉妹の順で決まります。緊急連絡先に登録されていた人が相続人ではないケースも珍しくありません。
解約の意思を書面でもらう
賃貸借契約を終わらせるのは相続人です。解約通知を書面かメールでもらってください。ここが済まないと家賃が発生し続けます。
残置物の処分について同意を取る
相続人が自分で片付けるのか、大家側で業者を手配して費用を請求するのかを決めます。後者の場合は、必ず書面で同意を取ってください。
「室内の残置物一式について、貸主が業者へ依頼して処分することに同意します。費用は相続人が負担します」
この一文があるかどうかで、後々の立場がまったく変わります。LINEやメールの文面でも記録として機能します。
相続人が遠方で現地に来られない場合、立会いなしで対応する遺品整理業者を使えば、鍵の受け渡しだけで完結します。相続人側の負担が減れば、話が前に進みやすくなります。進め方は遠方の実家、遺品整理に行けないときの進め方にまとめました。
② 相続人が動かない場合
「相続放棄するつもりだ」「自分は関係ない」と言われることがあります。
このとき重要なのは、相続放棄をしても、家庭裁判所で手続きが完了するまでは相続人のままだという点です。放棄の申述が受理されたかどうかを確認してください。相続放棄申述受理通知書の写しをもらえば分かります。
放棄が確定していないなら、相続人として交渉を続けられます。
放棄が確定した場合は、次順位の相続人に権利が移ります。子が放棄すれば親、親も放棄すれば兄弟姉妹へと順に移ります。全員が放棄して初めて、相続人が不在という状態になります。
なお、2023年4月に施行された改正民法940条により、相続放棄をした人でも、放棄の時点でその財産を現に占有していた場合は、引き渡すまで保存する義務を負います。同居していた相続人などがこれに当たります。
出典:民法第940条|e-Gov法令検索
相続人が遠方の場合、立会いなしで対応できる業者を紹介できると話が前に進みます。

③ 相続人が誰もいない場合
家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てます。申立てをするのは、通常は債権者である大家です。
選任された清算人が、残置物の処分と債務の清算を行います。
費用がかかります。申立てには予納金が必要で、事案によって数十万円から100万円程度になることがあります。相続財産から回収できる見込みが薄い場合、この予納金は戻ってきません。
そのため実務では、この手続きに入る前に「残置物の価値がほとんどないこと」を写真と目録で記録したうえで、リスクを承知で処分に踏み切る貸主もいます。ただしこれは推奨できる方法ではありません。後から相続人が現れる可能性が残るためです。
契約書の残置物特約は万能ではない
「退去後に残された物は所有権を放棄したものとみなし、貸主が処分できる」という特約が入っている契約書があります。
ただし、この特約が死亡の場面でそのまま働くとは限りません。借主本人が自らの意思で退去したわけではないためです。特約の効力については争いがあり、内容や状況によって判断が分かれます。
特約があるから安心、とは考えないでください。あるに越したことはありませんが、それを根拠に独断で処分すると、相続人が現れたときに争いになります。
空室期間を短くするために、今日できること
順番を守りつつ、動きを止めない工夫はあります。
- 相続人の調査を早く始める。戸籍を辿る作業は時間がかかる
- 連絡が取れた時点で、解約の意思確認を最優先で済ませる。家賃が止まる
- 特殊清掃が必要かどうかを先に判断する。汚損は時間とともに進み、費用が上がる
- 孤独死保険に加入しているなら、早めに保険会社へ連絡する
- 残置物の状態を写真で記録しておく。あとから何を処分したかの証拠になる
3番は特に重要です。発見が遅れた部屋は、放置するほど原状回復の費用が膨らみます。相続人との交渉が長引きそうなら、清掃だけでも先に進める判断が必要になる場合があります。その場合も、費用の負担について事前に整理しておいてください。
費用の負担が誰に向かうかは孤独死の原状回復費用は誰が払うのか、保険で賄える範囲は孤独死の少額短期保険は片付け費用に使えるかで扱っています。
【FAQ】入居者死亡後の残置物についてよくある質問
Q. 連帯保証人に片付けさせることはできますか。
できません。連帯保証人が負うのは金銭的な支払い義務であり、荷物を撤去する義務ではありません。費用を請求することはできますが、作業そのものを求めることはできません。
Q. 家賃はいつまで発生しますか。
相続人が解約手続きを取るまで発生します。誰も住んでいなくても、契約が続いている限り賃料債権は発生します。
Q. 緊急連絡先の人に処分してもらってもいいですか。
その人が相続人でなければ、処分の権限はありません。相続人を確認してください。
Q. 少額の家財だけです。それでも処分できませんか。
金額の大小は関係ありません。財産である以上、勝手に処分すれば同じ問題が生じます。
Q. 部屋を空けないと次の入居者が入れられません。
空室損失については、状況によって相続人や連帯保証人に請求できる場合があります。ただし認められる範囲には限りがあります。金額が大きい場合は弁護士に相談してください。
まとめ
- 入居者が亡くなっても契約は終わらない。残置物は相続人の財産であり、大家が独断で処分できない
- 最短は、相続人から解約の意思と処分の同意を書面で取ること
- 相続人が全員放棄した場合は、相続財産清算人の選任を申し立てる。予納金がかかる
- 契約書の残置物特約があっても、死亡の場面でそのまま働くとは限らない
- 汚損は時間とともに進む。特殊清掃の要否だけは早く判断する
急いでいるほど、手順を飛ばしたくなります。ただ、同意を1通取るのに数日かかったとしても、後で数ヶ月争うより確実に早く終わります。
相続人との話がまとまったら、次は費用です。特殊清掃を含む見積もりは業者によって差が大きいので、複数社に見てもらってから進めてください。
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同意が取れたら、あとは費用です。相続人側の負担が読めると、交渉がまとまりやすくなります。

