この記事でわかること
- 請求された金額が妥当かどうかを、自分で確認する手順がわかる
- 借主負担になるものと、貸主負担のものの境目がわかる
- 大家が手配した業者を断って、自分で頼めるかどうかがわかる
- 減額を求めるときの具体的な進め方がわかる
親族が亡くなったあと、大家さんや管理会社から遺品整理と原状回復の費用を請求された。金額が想像より大きい。内訳を見ても「一式」としか書かれていない。
このまま払うべきなのか。
先に結論を言います。
請求されたものを、そのまま全額払う必要はありません。
理由は3つあります。ひとつは、通常の使用による劣化(通常損耗)は借主の負担ではないこと。ひとつは、業者を大家側が手配していた場合、こちらが選べば安くなる可能性があること。そしてもうひとつ、そもそも請求の根拠が示されていない状態では、金額を確認できないからです。
まずやることは、支払いでも交渉でもなく、明細を出してもらうことです。

大家から請求されたら、最初に確認する5つ
① 内訳の明細を出してもらう
「遺品整理・原状回復費用一式 ◯◯万円」だけの請求には応じないでください。項目ごとに、何をいくらで行ったのかを求めます。これは正当な要求です。
② 作業前後の写真を求める
何がどれだけあったのか、どこが汚れていたのかを確認します。写真がない請求は、内容を検証できません。
③ 契約書を確認する
原状回復の特約、残置物の処理に関する条項、業者指定の有無を見ます。契約書が手元になければ、管理会社に写しを求めてください。
④ 敷金がいくら充当されたかを確認する
敷金は原状回復費用に充てられます。差し引いた後の請求になっているかを見ます。
⑤ 保険が使われていないかを確認する
賃貸で親が亡くなったときに、そもそも何にいくらかかるのかを先に押さえておくと、請求の妥当性が判断しやすくなります。総額の内訳は賃貸で親が死亡したら退去はいつまでかにまとめました。
大家が孤独死保険に入っている場合、そこから補填されているのに満額請求されているケースがあります。「保険は適用されていますか」と聞いてください。
賃貸の原状回復で借主負担になるもの・ならないもの
国土交通省のガイドラインが判断の基準になります。
参考:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン|国土交通省
| 費目 | 負担の考え方 |
|---|---|
| 残置物(家具・家電・生活用品)の撤去 | 借主負担 |
| 明らかな汚損・破損の修復 | 借主負担 |
| 特殊清掃・消臭(孤独死の場合) | 借主負担が原則 |
| 日焼けによるクロスの変色 | 貸主負担(通常損耗) |
| 家具の設置跡、へこみ | 貸主負担(通常損耗) |
| 画鋲・ピンの穴 | 貸主負担が原則 |
| 設備の寿命による交換(給湯器・エアコンなど) | 貸主負担(経年劣化) |
| 汚損と無関係な範囲のリフォーム | 貸主負担 |
| 次の入居者のためのハウスクリーニング | 特約があれば借主負担のことがある |
請求書を上の表に当てはめて、貸主負担のものが混ざっていないかを見てください。よくあるのは、部屋全体のクロス張り替えや、フローリング全面の交換です。汚損が一部にとどまっているなら、その範囲だけが借主負担です。
なお、通常損耗まで借主負担とする特約が契約書にある場合もありますが、そうした特約は、内容が明確に示され借主が理解して合意していることなどが必要とされ、常に有効とは限りません。金額が大きいなら確認する価値があります。
大家が手配した遺品整理業者を断れるか
契約書に業者指定の特約がなければ、こちらで業者を選べます。
大家や管理会社が提携業者を手配するのは、そのほうが手間がかからないからです。ただしその分、紹介手数料が乗っていることがあります。
対応の仕方はこうです。
まだ作業が行われていない場合
「こちらで業者を手配します」と伝えてください。同時に、大家側の見積もりももらっておき、自分で取った見積もりと比較します。
このとき、大家側の要求(作業範囲、期限、原状回復の水準)を確認しておくことが重要です。安い業者に頼んでも、大家が求める水準に達していなければやり直しになります。
すでに作業が終わっている場合
事後になるため、業者の変更はできません。ただし、金額の妥当性は争えます。別の業者に同じ条件で見積もりを出してもらい、相場から大きく外れていれば交渉材料になります。
契約書に業者指定の特約がある場合
その業者を使う必要があります。ただし、その場合でも作業範囲と金額の内訳は確認できます。
大家が手配した業者しか選べないという決まりはありません。同じ作業で別の見積もりを取れば、交渉の根拠になります。

遺品整理費用の減額を求めるときの進め方
感情的に「高すぎる」と言っても動きません。根拠を示して、項目単位で交渉します。
ステップ1:明細を項目ごとに分ける
上の表に当てはめて、借主負担・貸主負担・判断が分かれるもの、の3つに分類します。
ステップ2:貸主負担のものを指摘する
「クロスの張り替えについて、汚損があったのは和室のみと認識しています。他の部屋の張り替えは通常損耗にあたるため、負担の対象外と考えますがいかがでしょうか」
このように、箇所と理由をセットで書きます。ガイドラインを根拠として挙げると、話が早くなります。
ステップ3:相見積もりを提示する
同じ作業内容で他社の見積もりを取り、金額差を示します。これが最も効きます。
ステップ4:書面かメールでやり取りする
電話だけで済ませないでください。合意した内容は必ず記録に残します。
ステップ5:折り合わなければ相談する
金額が大きく、話がまとまらない場合は、自治体の無料法律相談や法テラス、消費生活センターに相談してください。少額訴訟という手段もあります。
支払ってしまってから取り戻すのは難しくなります。納得できないうちは、いったん保留にして構いません。
請求された金額を払えない場合
そのまま放置すると、保証会社や大家から訴訟を起こされることがあります。早めに動いてください。
① 相続財産から支払う
亡くなった方の預貯金があれば、そこから出すのが本来の形です。相続手続きを進めてください。
② 相続放棄を検討する
孤独死だった場合は費用の性質が変わります。負担の分かれ目は孤独死の原状回復費用は誰が払うのかを見てください。
負債のほうが大きいなら、相続放棄という選択があります。ただし部屋の物に手を付けていると放棄できなくなる可能性があるので、状況を確認してください。期限は3ヶ月です。
③ 分割を相談する
一括で無理なら、その旨を伝えて分割を相談します。連絡を取らないまま放置するのが一番悪い対応です。
④ 連帯保証人の状況を確認する
保証人がいる場合、請求はそちらにも行きます。2020年4月以降の契約なら、保証額に上限(極度額)が定められているはずです。確認の手順は連帯保証人に部屋の荷物を撤去する義務はあるかにあります。
【FAQ】大家からの請求についてよくある質問
Q. 「一式」の請求書しか出してもらえません。
出せない理由はありません。業者から大家に出された見積書があるはずなので、その写しを求めてください。応じない場合は、その姿勢自体が交渉材料になります。
Q. すでに支払ってしまいました。取り戻せますか?
難しくなりますが、不可能ではありません。明らかに貸主負担のものが含まれていた場合、返還を求められることがあります。領収書と明細を持って法律相談を受けてください。
Q. 家財を勝手に処分されていました。
原則として違法です。相続人は損害賠償を請求できる可能性があります。処分された物の内容と価値を、写真や記憶から整理してください。
Q. 敷金が返ってくると思っていたのに、逆に請求されました。
孤独死や長期居住のケースでは、敷金で足りないことがよくあります。ただし、だからといって請求額をそのまま受け入れる必要はありません。内訳を確認してください。
Q. 大家さんとの関係を悪くしたくありません。
明細を求めることも、相見積もりを取ることも、通常の手続きです。無理な要求ではありません。丁寧に、根拠を示して伝えれば、関係が壊れることはほとんどありません。
まとめ
- 請求されたものをそのまま全額払う必要はない
- まずやることは支払いでも交渉でもなく、明細と写真を求めること
- 通常損耗・経年劣化・汚損と無関係なリフォームは貸主負担
- 業者指定の特約がなければ、こちらで業者を選べる
- 減額を求めるときは、箇所と理由をセットにして、相見積もりを添える
金額の妥当性を判断するには、比較対象が必要です。同じ作業内容で別の業者に見積もりを出してもらえば、相場から外れているかどうかがすぐ分かります。
見積もりを取ること自体に費用はかかりませんし、依頼する義務も生じません。請求書を前に悩んでいる時間があるなら、まず他社の金額を知ってください。
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請求書を前に悩んでいる時間があるなら、他社の金額を知るほうが早く進みます。

