この記事でわかること
- 親が亡くなっても賃貸借契約は終わらず、家賃が発生し続ける理由がわかる
- 退去までにかかる総額の内訳と、自分のケースで計算する式がわかる
- 相続放棄を考えている場合に、絶対にやってはいけないことがわかる
- 大家・管理会社へ最初に確認すべき5項目が、そのまま使える形でわかる
大家さんや管理会社から「早めに部屋を空けてください」と言われた。でも葬儀と役所の手続きが続いていて、部屋を見に行く時間すら取れない。そもそも、いつまでに空ければいいのかも分からない。
知っておいてほしいことが2つあります。どちらも、知らないまま動くと数十万円単位で損をします。
1つ目。親が亡くなっても、賃貸借契約は終わりません。解約の手続きを取るまで、誰も住んでいない部屋の家賃が発生し続けます。家賃7万円なら、対応が1ヶ月遅れるだけで7万円が消えます。
2つ目。親に借金があるかもしれないなら、部屋の物を1つも動かさないでください。荷物を片付けた時点で、相続放棄ができなくなる可能性があります。借金があれば、それも背負うことになります。
多くの人が、この2つ目を知らないまま片付けを始めます。大家さんに急かされて、善意で部屋を空けて、あとから督促状が届く。そこで初めて、もう放棄できないと知る。
逆に言えば、順番さえ間違えなければ、この手続きは1〜2ヶ月で終わります。
退去期限が決まっているなら、片付けの費用と最短日数を先に知っておくと、解約通知の日付を決められます。

親が死亡しても、賃貸借契約は終わらない
借りる権利は、相続人に引き継がれる
建物の賃貸借契約は、借りていた人が亡くなっても終了しません。部屋を借りる権利(借家権)は、預金や不動産と同じように相続財産として相続人に引き継がれます。
公益社団法人全日本不動産協会も、借主の死亡によって賃貸借契約は終了せず、借家権は相続人に承継されると説明しています。
つまり、契約上の「借主」の立場が、亡くなった親から相続人であるあなたへ移ります。
だから、家賃は解約するまで発生する
契約が続いている以上、家賃の支払い義務も続きます。誰も住んでいなくても、荷物があってもなくても関係ありません。
「四十九日が済んでから考えよう」と後回しにすると、その間の家賃をまるまる負担することになります。
家賃7万円、解約予告1ヶ月の物件で計算すると、こうなります。
| 解約を通知した時期 | 家賃の発生月数 | 支払う家賃 |
|---|---|---|
| 死亡から2週間後 | 約1.5ヶ月 | 105,000円 |
| 死亡から1ヶ月後 | 2ヶ月 | 140,000円 |
| 死亡から2ヶ月後 | 3ヶ月 | 210,000円 |
| 死亡から3ヶ月後 | 4ヶ月 | 280,000円 |
1ヶ月動くのが遅れるごとに、家賃1ヶ月分が消えます。これが「早く動いたほうがいい」と言われる本当の理由です。
賃貸で親が亡くなったとき、総額でいくらかかるか
退去までにかかるのは家賃だけではありません。内訳はこうなります。
| 費目 | 費用の目安 | 発生条件 |
|---|---|---|
| 死亡日から解約日までの家賃 | 家賃 × 1.5〜2ヶ月 | 必ず発生 |
| 遺品整理・搬出 | 1Kで5万〜15万円、1DK以上でさらに上がる | 必ず発生 |
| 家電リサイクル料 | 1台あたり数千円 | 対象4品目がある場合 |
| 原状回復(通常損耗を除く) | 敷金から充当 | 契約内容による |
| 特殊清掃 | 発見までの日数で大きく変動 | 発見が遅れた場合のみ |
| 家賃の滞納分 | 滞納額 | 滞納があった場合 |
家電リサイクル料は、エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機の4品目が対象です。品目ごとの料金は経済産業省の資料で確認できます。
参考:家電4品目の「正しい処分」早わかり!|経済産業省
あなたのケースの総額を出す式
手元の数字を当てはめてください。
総額 = 家賃 × 発生月数
+ 遺品整理費用
+ 家電リサイクル料 × 台数
+ 原状回復費用
- 敷金
発生月数は、「今日から解約通知までに何日かかるか」と「解約予告期間」を足して出します。ここを1ヶ月縮められるかどうかが、金額を左右する最大のポイントです。
つまり、急ぐべきは片付けではなく解約通知です。順番を間違えている人が多いところです。
退去はいつまでか。部屋を空ける期限は実質1〜2ヶ月
「いつまでに」という法律上の期限はありません。実務上1〜2ヶ月に収まるのは、解約予告期間があるからです。
解約予告は1ヶ月前が一般的
賃貸借契約書には、解約する場合に何日前までに通知するかが書かれています。個人向けの居住用物件では1ヶ月前が最も多い設定です。
解約を通知した日から1ヶ月後が契約終了日になり、その日までに荷物を出して部屋を明け渡す、という流れになります。
死亡日から逆算すると、こうなります。
| 時期 | やること | 遅れると起きること |
|---|---|---|
| 〜2週間 | 大家・管理会社・保証会社へ連絡 | 家賃減額の交渉余地がなくなる |
| 〜1ヶ月 | 契約書を確認し、相続するか放棄するかを決める | 相続放棄の3ヶ月期限に追われる |
| 1ヶ月前後 | 解約を通知(ここから予告期間がスタート) | 1ヶ月ごとに家賃1ヶ月分が増える |
| 〜2ヶ月 | 片付け・原状回復・鍵の返却 | 契約終了日を過ぎると延長分を請求される |
急いで見えますが、実際に手を動かすのは最後の1ヶ月だけです。最初の1ヶ月は「決めるための時間」です。
契約書が見つからないときは
親の部屋の契約書がどこにあるか分からない、というのはよくあります。その場合は管理会社に電話すれば、契約内容を教えてもらえます。
相続人であることを伝えれば対応してもらえるのが通常ですが、管理会社によっては戸籍謄本などで相続人であることの確認を求められることがあります。電話の前に、除籍謄本と自分の戸籍を用意しておくと二度手間になりません。
相続放棄を考えているなら、片付けに手をつけてはいけない
ここが、この記事でいちばん重要な部分です。
親に借金があるかもしれない。資産より負債のほうが多そうだ。そう思っている方は、部屋の中の物を1つも動かさないでください。
遺品を処分すると相続を承認したとみなされる
民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認したものとみなすと定めています。
出典:民法第921条(法定単純承認)|e-Gov法令検索
亡くなった方の部屋にある家具・家電・衣類・現金は、すべて相続財産です。それを片付けて捨てる行為が「財産を処分した」と判断される可能性があります。
そうなると、相続放棄ができなくなります。借金があれば、それも引き継ぎます。
親切のつもりで片付けただけでも同じです。意図は関係ありません。
相続放棄をするかどうかは3ヶ月以内に決める
相続放棄には「自分が相続人だと知ったときから3ヶ月」という期限があります。
賃貸の退去期限(1〜2ヶ月)と相続放棄の期限(3ヶ月)が重なるため、先に相続放棄の判断をしてから片付けに入るのが正しい順番です。
判断がつかない場合は、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てられます。
参考:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所
相続放棄をしても、管理義務が残る場合がある
2023年4月1日に施行された改正民法940条により、相続放棄をした人の義務の範囲が明確になりました。
放棄した時点でその財産を「現に占有している」場合に限り、次の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務を負います。
出典:民法第940条|e-Gov法令検索
つまり、こうなります。
- (親と同居していたため)室内の物を現に占有している → 保存義務が生じる可能性がある
- (鍵を預かって出入りしていたため)占有と評価される余地がある → 慎重な判断が必要
- (遠方に住み一度も立ち入っていないため)占有していない → 原則として義務は生じない
ここは個別の事情で結論が変わります。借金の可能性が少しでもあるなら、片付けを始める前に弁護士か司法書士に相談してください。数千円の相談料で、数百万円の負債を回避できる場合があります。
どこまでが「処分」にあたるのか、形見をひとつ持ち帰るのはどうなのか。その線引きは相続放棄をする前に、遺品に触っていいのかで整理しています。
荷物の量が読めないうちは、総額も読めません。同じ条件で何社かに聞けば、その場で幅が見えます。

退去と片付けの手順(この順番で進める)
相続することが決まっている前提で、実際の手順を並べます。
① 大家・管理会社・保証会社へ連絡する
まず電話です。連絡が早いほど、その後の交渉がしやすくなります。
このとき、次の5つを必ず聞いてください。
- 解約予告期間は何日前か
- 死亡日を起算日にした家賃の減額や日割り対応は可能か
- 原状回復のどこまでが借主負担か
- 室内の残置物は自分で処分する必要があるか
- 保証会社が入っている場合、原状回復費用は保証の対象か
2番を聞かない人が非常に多い。大家さんによっては死亡日以降の家賃を減額してくれるケースがあります。聞かなければ絶対に減額されません。電話1本で数万円変わる可能性があるので、必ず聞いてください。
3番については、通常の使用による劣化(通常損耗)は借主負担にならないのが原則です。判断基準は国土交通省のガイドラインが基準になります。
参考:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン|国土交通省
② 契約書を確認する
解約予告期間、原状回復の特約、敷金の有無を確認します。見つからなければ①の電話で聞けば済みます。
③ 相続するか放棄するかを決める
前章のとおりです。ここが決まるまで、部屋の物には触れません。
④ 解約を通知する
解約日を決めて、書面またはメールで通知します。ここから予告期間のカウントが始まります。
片付けの目処が立ってから通知するのが安全です。先に通知すると、期限に追われて業者を選ぶ余裕がなくなり、結果的に割高な契約をすることになります。
⑤ 片付けと原状回復
ここで初めて荷物を出します。自分でやるか業者に頼むかは、荷物の量と現地に行ける回数で決まります。
| 状況 | 現実的な選択 |
|---|---|
| ワンルーム・荷物が少ない・近所に住んでいる | 自分で片付けられる |
| 1DK以上・家具家電が残っている | 自分だと2〜3週間かかる |
| 遠方に住んでいる・仕事を休めない | 業者に依頼したほうが結果的に安い |
| 相続放棄の可能性が残っている | まだ何もしない |
遠方で現地に何度も行けない場合は、立会いなしで完結させる方法があります。鍵の渡し方まで含めて遠方の実家、遺品整理に行けないときの進め方にまとめました。
片付け費用は、相場を見ただけでは分からない3つの理由
ここまで金額の目安を出してきましたが、正直に言うと、この記事の数字だけであなたの総額は決まりません。理由は3つあります。
1つ目。荷物の量は、見ないと分かりません。同じ1Kでも、押し入れと物置に何が詰まっているかで作業量が倍以上変わります。特に、長く住んでいた高齢者の部屋は、外から見た印象より荷物が多いのが普通です。
2つ目。搬出経路で人件費が変わります。エレベーターがないため階段での手運びになる、前面道路が狭いためトラックを離れた場所に停めて往復する、隣家との距離が近いため養生を厳重にする。これらはすべて人件費に跳ね返ります。
3つ目。特殊清掃が必要かどうかは、現地を見ないと判断できません。発見までに時間が経っていた場合、通常の遺品整理では対応できず、金額が一桁変わることもあります。
だから、金額を知る唯一の方法は、複数社に見てもらうことです。相場記事をいくら読んでも、あなたの部屋の金額は出てきません。
そして重要なのは、見積もりを取ってから解約通知を出すこと。逆にすると、期限に追われて1社の言い値で決めることになります。
退去期限までに片付けが間に合わないときの3つの選択肢
予告期間の1ヶ月では、どうしても片付けきれない。そういう場合の現実的な手です。
1つ目は、家賃を1ヶ月分多く払って期間を延ばす方法です。家賃7万円なら7万円で1ヶ月買えます。慌てて割高な業者に依頼するより安く済むことがあります。
2つ目は、大家さんに事情を話して交渉する方法です。死亡による退去は大家さんも慣れています。予告期間の起算日をずらしてくれるケースがあります。ただし口約束にせず、メールなど記録に残る形にしてください。
3つ目は、遺品整理業者に一括で依頼する方法です。荷物の量が多い場合、これが最短です。退去期限が迫っている事情を伝えれば、数日以内に日程を組んでもらえることもあります。
3つ挙げましたが、遠方に住んでいるなら3番以外は現実的ではありません。往復の交通費と有給を使って何度も通うより、1回で終わらせたほうが金額でも時間でも合理的です。1番と2番は、近所に住んでいて自分で運べる人だけの選択肢です。
【FAQ】賃貸で親が亡くなったときのよくある質問
Q. 親の部屋の鍵を持っています。勝手に入っていいですか?
相続人であれば立ち入ること自体は問題ありません。ただし相続放棄を検討している場合、立ち入ったうえで物を動かすと「現に占有している」と判断される要素になり得ます。中を確認するだけにとどめ、持ち出さないでください。
Q. 家賃の滞納がありました。誰が払うのですか?
相続人が引き継ぎます。滞納分も相続財産(負債)の一部です。相続放棄をすれば支払い義務はなくなります。
Q. 連帯保証人が親戚です。その人が片付けなければいけませんか?
連帯保証人が負うのは金銭的な支払い義務であり、片付けそのものの義務ではありません。ただし原状回復費用が発生すれば、請求は保証人にも及びます。実務では保証人が費用を立て替えて業者に依頼するケースが多く見られます。保証人の側から見た義務の範囲は連帯保証人に部屋の荷物を撤去する義務はあるかにあります。
Q. 孤独死でした。特殊清掃が必要と言われています。
室内で亡くなってから時間が経っている場合、通常の遺品整理では対応できず特殊清掃が必要になります。費用の負担者は契約内容と状況によって変わります。誰がいくら払うことになるかは孤独死の原状回復費用は誰が払うのか、金額の目安は特殊清掃の費用相場で扱っています。
Q. 敷金は返ってきますか?
契約内容と原状回復の状況によります。敷金から原状回復費用が差し引かれ、残額があれば相続人に返還されます。不足すれば追加で請求されます。通常損耗まで借主負担とする特約は、無効と判断されることもあります。
Q. 費用を払うお金がありません。
買取による相殺、分割払いに対応する業者、自治体の制度など、いくつか経路があります。それぞれの条件は遺品整理のお金がないとき、どうするかで比べています。
まとめ
賃貸に住んでいた親が亡くなったときに、押さえておくべき点は4つです。
- 賃貸借契約は死亡では終わらない。借家権は相続人に引き継がれ、解約するまで家賃が発生し続ける
- 総額は家賃だけではない。家賃・遺品整理・家電リサイクル・原状回復の合計で見る
- 相続放棄を考えているなら、部屋の物に一切触れない。処分すると単純承認とみなされ、放棄できなくなる
- 急ぐべきは片付けではなく解約通知。ただし見積もりを取ってから通知する
順番を間違えなければ、この手続きは1〜2ヶ月で終わります。逆に片付けから手をつけると、相続放棄の道が閉じたり、家賃を余計に払うことになります。
まず電話。次に判断。見積もり。そして解約通知。片付けは最後です。
遠方で通えない、仕事を休めない、荷物の量が想像以上だった。そういう状況なら、まず何社かに見積もりを取って、費用と最短日数を把握するところから始めてください。
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見積もりを取ってから解約を通知する。この順番だけ守れば、期限に追われて言い値で決めることはなくなります。

