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自分が片付けを進めている。兄弟は遠方で何もしない。それなのに、あとから文句を言われそうで手が止まる。
先に、法律上の位置づけを書きます。
遺品は相続財産です。民法898条で、相続人が数人いるときの相続財産は相続人全員の共有と定められています。遺産分割が済むまで、1人の判断で処分する権限は、原則としてありません。
ただし、条文はそこで終わっていません。処分にあたらない行為が別に定められています。ここを知らないまま止まっている人が多いところです。
「処分」にあたらない行為が条文で決まっている
相続財産を処分すると単純承認をしたものとみなされる、というのが民法921条1号です。その条文には、ただし書が付いています。
保存行為と、民法602条に定める期間を超えない賃貸は、この限りでない。
つまり、傷むのを防ぐための行為は「処分」に入りません。 雨漏りの応急処置、腐る食品の廃棄、伸びた庭木の剪定、電気やガスの停止。これらをためらう必要はありません。
財産の値打ちをいまの状態に保つための行為のことです。増やす行為でも、減らす行為でもありません。
壊れかけた雨どいを直す、腐りかけた生ものを捨てる、放っておくと枯れるものに水をやる。こうした行為が当てはまります。
条文が保存行為を外しているのは、放置して傷ませるほうが相続人全員にとって損だからです。だから、日持ちしない生ゴミを捨てたことで単純承認とみなされる、ということにはなりません。
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仏壇と位牌とお墓は、そもそも遺産分割の対象ではない
見落とされがちですが、遺品の中に、相続財産とは別の枠で扱われるものがあります。
民法897条で、系譜、祭具、墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継すると定められています。被相続人が指定していた場合はその人です。慣習がはっきりしないときは家庭裁判所が定めます。
| もの | 法律上の扱い |
|---|---|
| 仏壇、位牌、神棚、遺影 | 祭具。祭祀主宰者が承継する |
| 家系図、過去帳 | 系譜。同上 |
| 墓石、墓地の使用権 | 墳墓。同上 |
| その他の家財、貴金属、預貯金 | 相続財産。相続人の共有 |
出典:民法897条
仏壇の扱いで揉めている場合、それは遺産分割の話ではありません。 誰が祭祀を継ぐかの話です。ここを分けると、話し合う相手も論点も変わります。
兄弟が遺品を勝手に処分して揉める3種類
| 種類 | 例 | 揉める理由 |
|---|---|---|
| 金銭的な価値があるもの | 貴金属、骨董、着物、時計、通帳、株券 | 相続分に関わる |
| 思い出のもの | 写真、手紙、日記、形見 | 代わりがない |
| 手間と費用の負担 | 誰が片付け、誰が費用を出したか | 不公平感が残る |
いちばん多いのは3つ目です。
「自分だけが何度も現地に行った」「費用を立て替えた」。片付けが終わってから、この不満が出てきます。処分そのものより、負担の偏りが原因になっていることが多くあります。
相談者生ものを捨てただけでも、あとで相続放棄ができなくなるのでしょうか?



保存行為は処分に入らないと条文に書かれています。腐るものを捨てるのはそれにあたります



では、何をすると危ないんですか?



金額のあるものです。貴金属を売る、通帳から引き出す、車を譲る。この3つが多いところです
勝手に処分したらどうなるか
起きることは2つに分かれます。相手が違います。
自分自身に返ってくるもの
相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条1号)。
あとから借金が判明しても、相続放棄ができなくなる可能性があります。判断の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。この期間は、家庭裁判所に申し立てれば伸ばすことができます。
線引きは相続放棄する前に遺品に触っていいかにまとめています。
他の相続人から求められるもの
価値のあるものを無断で処分した場合、その持分にあたる金額の返還や賠償を求められることがあります。根拠は、利益を受けた分の返還を定めた民法703条か、故意や過失による損害賠償を定めた民法709条です。
請求されるのは物ではなく金額です。すでに処分してしまったものを戻すことはできないためです。
日用品の処分で問題になることは通常ありません。明らかに価値のない衣類、生活用品、傷んだ家具。これらを処分したことが争いになるのは稀です。
預貯金は勝手に引き出してよいのか?
引き出しは処分行ためにあたります。ただし、葬儀費用などのために単独で払い戻せる制度が民法909条の2にあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 単独で引き出せる額 | 相続開始時の残高の3分の1に、自分の法定相続分を掛けた額 |
| 1つの金融機関あたりの上限 | 150万円 |
| 引き出した分の扱い | 遺産の一部を先に取得したものとみなされる |
出典:民法909条の2、および民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(150万円)
この範囲であれば、他の相続人の同意がなくても金融機関が応じます。逆に言うと、この枠を超えて引き出すと、単純承認とみなされる行ためになります。
作業前の写真撮影に対応する業者があります。記録が残れば、あとの説明がつきます。
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処分する前にやる4つ
1 全体を写真に撮る
片付ける前に、部屋ごとに写真を撮ってください。
- 各部屋の全景
- 押し入れ、タンス、金庫の中
- 仏壇の周り
- 明らかに価値がありそうなもの
これがあれば、あとから「あれはどうした」と聞かれても説明できます。5分で終わって、いちばん効果があります。
2 貴重品を先に確保する
通帳、権利証、保険証券、印鑑、貴金属、現金。これらは処分の対象にせず、まとめて保管してください。
金額のあるものを勝手に処分すると、相続分の問題に直結します。
3 処分してよい範囲を合意する
文面で残してください。長い書式は要りません。
遺品の整理について(合意)
・◯年◯月◯日から、◯◯(実家の所在地)の片付けを行います
・次のものは処分せず保管します
通帳、権利証、保険証券、印鑑、現金、貴金属、
写真とアルバム、手紙、日記
・仏壇、位牌、過去帳は祭祀財産として別に扱い、承継者を後日決めます
・上記以外の日用品、衣類、家具、家電は処分します
・買取に出せるものは買い取りに出し、代金は相続財産として扱います
・費用は立て替えたうえで、後日相続財産から精算します
・処分の前に部屋ごとの写真を撮り、全員に共有します
◯年◯月◯日
相続人 氏名
相続人 氏名
メールやメッセージのやりとりでも構いません。形式より、残っていることのほうが重要です。
4 期限を切って返事をもらう
「◯月◯日までに希望がなければ、上記の範囲で進めます」と伝えてください。
返ことがないまま進めるより、期限を示したほうが後々の説明がつきます。
費用と手間の精算
先に決めておくと、あとが楽になります。
- 遺品整理の費用は、原則として相続財産から支払う
- 立て替えた場合は領収書を保管する
- 交通費、宿泊費も含めるかどうかを決める
- 買取で得た代金は相続財産として扱う
「自分が全部やったのだから」という感情は、あとから必ず出てきます。最初に決めておくと、その形になりません。
費用の出どころは遺品整理の費用が払えないときの4つの方法にまとめています。
すでに処分してしまった場合
1 何を処分したかを整理する
記憶にある範囲で書き出してください。業者に頼んだ場合、作業前の写真や、買取に出したものの明細が残っていることがあります。
2 自分から先に伝える
聞かれてから答えるより、こちらから説明したほうが収まります。隠すと、あとで見つかったときに大きくなります。
3 買取に出したものがあれば、代金を明示する
金額を隠さないことが重要です。相続財産として分ける対象になります。
4 それでも争いになる場合
遺産分割調停の中で扱うことになります。弁護士に相談してください。
兄弟が遺品を勝手に処分したトラブルでよくある質問
- 生ゴミや腐った食品を捨てても相続放棄はできなくなりますか?
保存行ためにあたるので、処分には入りません。民法921条1号のただし書で除かれています。放置して傷ませるほうが相続人全員の不利益になるためです。
- 仏壇を私が引き取ると、その分だけ相続分が減りますか?
減りません。仏壇や位牌は民法897条の祭具にあたり、相続財産とは別に祭祀主宰者が承継します。遺産分割の対象外です。
- 葬儀費用のために親の口座からお金を出してもいいですか?
民法909条の2の範囲であれば単独で払い戻せます。残高の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額で、1つの金融機関につき150万円が上限です。
- 兄弟と連絡が取れません。どうすればいいですか?
住所は戸籍の附票で調べられます。それでも分からない場合の進め方は相続人と連絡が取れず家が売れないにまとめています。
- 遠方の兄弟が何もしてくれません。作業を分担させられますか?
現実的には難しいので、費用の負担や最終的な精算の形で調整してください。作業を無理に割り振るより、先に決めておくほうが揉めません。
- 賃貸で退去期限が迫っています。待てない場合はどうしますか?
期限があることを伝えたうえで、写真を撮って進めてください。期限は正当な理由になります。
- 3か月の期限に間に合いそうにありません。
家庭裁判所に申し立てれば、この期間を伸ばすことができます。民法915条1項のただし書に定められています。
この記事の要点
- 遺品は相続人全員の共有。1人の判断で処分する権限は原則としてない(民法898条)
- ただし保存行為は処分にあたらない。腐るものを捨てる、傷むのを防ぐ作業は進めてよい(民法921条1号ただし書)
- 仏壇、位牌、墓は祭祀財産で、遺産分割の対象外。誰が継ぐかは別の話(民法897条)
- 預貯金は残高の3分の1×法定相続分、1金融機関150万円までなら単独で引き出せる(民法909条の2)
- 揉める原因の多くは処分そのものではなく、手間と費用の偏り。先に精算の形を決めておく
まず、写真を撮ってください。それから、処分してよい範囲を短い文面で共有してください。
この2つをやっておけば、あとから問題になることはほとんどありません。
兄弟が遺品を勝手に処分したトラブルについて次に読む記事
同じ時期に必要になることが多い記事です。
費用は相続財産から出すものです。まず金額を出して、兄弟に示せる形にしてください。
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