この記事でわかること
- 家だけを相続放棄できない理由がわかる
- 全部を放棄した場合に何を失うかがわかる
- 家だけを手放したいときに使える方法が3つわかる
- 判断に使える期限がわかる
親の預貯金は受け取りたいが、田舎の実家はいらない。家だけ相続放棄できないか。
先に結論を言います。
相続放棄は、財産を選べません。 放棄すると、預貯金も、有価証券も、家財も、すべて相続しないことになります。家だけを外すことはできない仕組みです。
理由は、相続放棄が「最初から相続人ではなかったことにする」制度だからです。相続人でない人が、一部の財産だけを受け取ることはできません。
ただし、家を手放す方法は他にあります。 相続したうえで売る、引き取ってもらう、国に引き渡す。この3つです。

なぜ家だけ放棄できないのか
相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
参考:民法第939条|e-Gov法令検索
相続人でない以上、預貯金を受け取る権利もありません。プラスの財産だけを取ってマイナスを捨てる、という選択はできない仕組みになっています。
これは相続放棄が、借金を負わないための制度だからです。財産を選べるなら、債権者が回収できなくなってしまいます。
全部を放棄すると何を失うか
家を手放したいがために放棄すると、次のものも受け取れなくなります。
| 失うもの | 補足 |
|---|---|
| 預貯金 | 金額にかかわらず全額 |
| 有価証券、投資信託 | |
| 自動車、貴金属、骨董 | |
| 家財道具 | 形見も含む |
| 生命保険(相続財産に該当する場合) | 受取人が指定されていれば受け取れる |
| 未支給年金 | 受給権者固有の権利とされ、受け取れる場合がある |
生命保険金は、受取人が指定されていれば受け取れます。受取人固有の財産とされ、相続財産に含まれないためです。この点は誤解が多いところです。
つまり、預貯金がほとんどなく、生命保険は受取人指定がある。そういうケースなら、放棄しても失うものが少ないことになります。
まず、親の財産を洗い出してから判断してください。
家だけを手放す3つの方法
相続したうえで手放す方法です。
1. 売却する
もっとも現実的です。値がつかないと思っている家でも、扱う会社はあります。
- 傷んでいる、雨漏りがある
- 再建築不可の土地にある
- 田舎で買い手がいない
- 不動産会社に断られた
こうした条件でも、専門に扱う会社があります。「売れない」と判断する前に、金額を確かめてください。査定は無料で、依頼する義務も生じません。
2. 引き取ってもらう
値がつかない場合でも、無償または低額で引き取る仕組みがあります。
- 空き家バンクへの登録
- 隣地の所有者への譲渡
- 自治体への寄付(受け付けない自治体が多い)
- 引き取り専門の業者
自治体への寄付は、ほとんどの場合断られます。固定資産税が入らなくなるうえ、管理の負担が増えるためです。期待しないほうが確実です。
3. 相続土地国庫帰属制度を使う
2023年4月から始まった制度です。相続した土地を国に引き取ってもらえます。
参考:相続土地国庫帰属制度|法務省
ただし、要件が厳しく設定されています。
- 建物が建っている土地は対象外(解体が必要)
- 担保権や使用収益権が設定されていない
- 土壌汚染がない
- 境界が明らかで、争いがない
- 崖地や管理に過分の費用がかかる土地でない
そして、承認されても10年分の管理費相当額を負担金として納める必要があります。宅地なら原則20万円ですが、市街化区域などでは面積に応じて計算され、それより高くなることがあります。
建物を壊してから、負担金も払う。ここまでして引き渡す価値があるかは、売却額と比べて判断してください。
値がつかないと思っていた家に金額がつくことがあります。放棄を決める前に確かめてください。

判断のための期限
相続放棄の期限は3ヶ月
自分が相続人だと知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述します。判断がつかない場合は、期間の伸長を申し立てられます。
参考:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所
この期間に、財産と負債を洗い出してください。
- 預貯金の残高(金融機関に照会できます)
- 不動産の評価額(固定資産税の納税通知書で分かります)
- 借入の有無(信用情報機関に開示請求できます)
- 実家がいくらで売れるか(査定を取れば分かります)
家の査定額が分からないまま「いらない」と決めると、判断を誤ります。値がつかないと思っていた家に、想定外の金額がつくことがあります。
放棄する前にやってはいけないこと
相続放棄を検討している間は、次をしないでください。
- 遺品を処分する
- 預貯金を引き出して使う
- 不動産を売却する、賃貸に出す
- 家財を持ち帰る
これらは相続財産の処分にあたり、単純承認したものとみなされて放棄できなくなります。
参考:民法第921条(法定単純承認)|e-Gov法令検索
線引きは相続放棄をする前に、遺品に触っていいのかにまとめています。
なお、2023年4月施行の改正民法940条により、放棄した時点でその財産を現に占有していた場合は、引き渡すまで保存する義務が残ります。同居していた場合が該当します。
【FAQ】家だけの相続放棄についてよくある質問
Q. 相続人全員が放棄したら、家はどうなりますか。
家庭裁判所が相続財産清算人を選任して清算します。申立てには予納金が必要で、数十万円から100万円程度かかることがあります。
Q. 限定承認という方法があると聞きました。
プラスの財産の範囲でマイナスを引き継ぐ制度です。ただし相続人全員で申述する必要があり、手続きが複雑で税務上の扱いも特殊です。使われる件数は多くありません。
Q. 預貯金だけ先に受け取って、あとから放棄できますか。
できません。預貯金を使った時点で単純承認とみなされます。
Q. 遺産分割協議で「家は要らない」と言えば済みませんか。
相続人の間ではそれで済みます。他の相続人が引き継げばいいだけです。放棄が必要になるのは、誰も引き継ぎたくない、または借金がある場合です。
Q. 3ヶ月を過ぎてしまいました。
事情によっては受理されることがあります。借金の存在を後から知った場合など、判断が分かれる領域です。弁護士か司法書士に相談してください。
まとめ
- 相続放棄は財産を選べない。家だけを外すことはできない
- 放棄すると預貯金も家財も受け取れない。ただし受取人指定のある生命保険は受け取れる
- 家だけ手放すなら、売却・引き取り・国庫帰属の3つ
- 国庫帰属は建物の解体が必要で、負担金もかかる
- 判断する前に、預貯金・負債・そして家の査定額を洗い出す
まず、実家がいくらになるかを確かめてください。値がつかないと思い込んだまま放棄すると、受け取れたはずの預貯金まで失うことになります。
査定は無料で、依頼する義務も生じません。金額が分かってから、放棄するかどうかを決めてください。期限は3ヶ月です。
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査定額が分からないまま放棄すると、受け取れたはずの預貯金まで失います。期限は3ヶ月です。

