この記事でわかること
- 認知症の親の家を売れない理由がわかる
- 成年後見制度を使った場合の費用と期間がわかる
- 後見人が付いても自宅は簡単に売れないことがわかる
- 判断能力があるうちにできる備えがわかる
親が施設に入り、実家が空き家になった。維持費もかかるので売りたいが、不動産会社に「本人の意思確認ができないと売れない」と言われた。
先に、仕組みを整理します。
不動産の売買は本人の意思にもとづく契約です。 判断能力を失っている状態では、その意思を確認できません。子どもであっても、勝手に代わって契約することはできません。
売るには、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要があります。
ただし、後見人が付けば自由に売れるわけではありません。居住用不動産の売却には、家庭裁判所の許可が別途必要です。

なぜ子どもでは売れないのか
親子であっても、代理権は自動的には生まれません。
判断能力が不十分な人が結んだ契約は、後から取り消される可能性があります。不動産会社や司法書士がこれを避けるため、意思確認ができない場合は取引を進めません。
「実印と権利証があるから大丈夫」ではありません。決済の場で司法書士が本人の意思確認を行い、そこで判断能力に疑いが生じれば手続きは止まります。
成年後見制度を使う
判断能力の程度に応じて3つの類型があります。
| 類型 | 対象 |
|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 |
| 補助 | 判断能力が不十分 |
不動産の売却が必要な場面では、後見が使われることが多くあります。
参考:成年後見制度|法務省
手続きの流れ
- 家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てる
- 医師の診断書を提出する(必要に応じて鑑定)
- 家庭裁判所の調査、面接
- 審判、後見人の選任
- 登記
選任まで数ヶ月かかります。事案によってはさらに長くなります。
費用
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 申立て費用(収入印紙、郵券) | 1万円前後 |
| 診断書 | 数千円〜1万円 |
| 鑑定費用(必要な場合) | 10万〜20万円程度 |
| 申立てを専門家に依頼する場合 | 10万〜20万円程度 |
| 後見人への報酬 | 月2万円前後から(財産額により変動) |
いちばん重いのは後見人への報酬です。親族が後見人になれば報酬なしにできますが、財産が多い場合や親族間に対立がある場合は、弁護士や司法書士などの専門職が選任されます。
そして、後見は本人が亡くなるまで続きます。家を売るためだけに始めても、途中でやめることはできません。10年続けば報酬だけで240万円を超えることもあります。
後見人が付いても自由には売れない
ここが誤解されやすい点です。
居住用不動産を売るには、家庭裁判所の許可が必要です。
参考:民法第859条の3|e-Gov法令検索
許可の判断では、次のような点が見られます。
- 売却の必要性(施設費用に充てる必要があるかなど)
- 売却価格が適正か
- 本人が帰る可能性がないか
- 売却後の生活に支障がないか
「空き家で維持費がかかるから」だけでは足りないことがあります。施設費用の支払いに充てるといった、本人のための理由が求められます。
なお、施設に入っていても、本人が戻る可能性が残っていると判断されれば、居住用として扱われます。
査定に本人の意思確認は不要です。申立ての材料にも、施設費用の計画にも使えます。

判断能力があるうちにできる備え
まだ判断能力が残っている段階なら、選択肢があります。
任意後見契約
将来判断能力が低下したときに備えて、誰に何を任せるかをあらかじめ決めておく契約です。公正証書で作成します。
法定後見と違い、後見人を自分で選べます。子どもを指定することもできます。
ただし、実際に効力が生じるのは判断能力が低下してからで、そのときに家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立てる必要があります。監督人には報酬が発生します。
家族信託
財産の管理と処分の権限を、あらかじめ家族に託しておく仕組みです。
不動産の売却に関しては、これがもっとも柔軟です。信託契約で処分の権限を定めておけば、判断能力が低下したあとでも、家庭裁判所の許可なしに売却できます。
| 家族信託 | 成年後見 | |
|---|---|---|
| 開始 | 判断能力があるうちに契約 | 低下してから申立て |
| 不動産の売却 | 契約内容の範囲で可能 | 居住用は裁判所の許可が必要 |
| 継続的な費用 | 原則なし | 後見人報酬が続く |
| 初期費用 | 30万〜100万円程度 | 数万円〜 |
| 身上監護 | できない | できる |
初期費用は高くなりますが、長期で見れば後見より安く済むことがあります。一方で、介護や医療の契約といった身上監護は信託では扱えないため、両方を併用することもあります。
どちらも、判断能力があるうちにしか始められません。親の様子に不安を感じたら、早めに専門家へ相談してください。
売却の準備は先にできる
後見の申立てをする段階でも、査定を取ることはできます。
金額が分かっていると、次の場面で役立ちます。
- 家庭裁判所への申立てで、財産の内容を具体的に説明できる
- 居住用不動産の売却許可を求める際、価格の妥当性を示す材料になる
- 施設費用にいくら充てられるかが計算できる
- 兄弟間で方針を話し合うときの土台になる
査定を取ること自体には、本人の意思確認は不要です。相続人や親族として、金額を知るために依頼できます。
【FAQ】親が認知症の場合の実家売却についてよくある質問
Q. 親に少しは判断能力があります。それでも売れませんか。
程度によります。医師の診断と、司法書士の意思確認によって判断されます。まず不動産会社と司法書士に状況を相談してください。
Q. 委任状を書いてもらえば大丈夫ですか。
判断能力がない状態で書かれた委任状は無効です。作成時点で意思能力があったかが問われます。
Q. 後見人に子どもがなれますか。
申立ての際に候補者として挙げられますが、決めるのは家庭裁判所です。財産が多い、親族間に対立があるといった場合は専門職が選任されます。
Q. 空き家の維持費が負担です。後見が終わるまで払い続けますか。
後見人が選任されれば、本人の財産から支出できます。それまでは立て替えることになりますが、記録を残しておけば精算できます。
Q. 家族信託は誰に相談すればいいですか。
信託に詳しい司法書士や弁護士です。取り扱っていない事務所もあるので、実績を確認してください。
まとめ
- 判断能力を失った本人の不動産は、子どもでも勝手に売れない
- 売るには成年後見人の選任が必要。選任まで数ヶ月かかる
- 後見人が付いても、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要る
- 後見は本人が亡くなるまで続き、専門職なら報酬が発生し続ける
- 判断能力があるうちなら、任意後見契約や家族信託という選択がある
まず、親の判断能力がどの程度かを医師に確認してください。ここで進む道が決まります。
そして、手続きと並行して実家の査定を取っておいてください。金額は申立ての材料にもなり、施設費用の計画にも使えます。査定に本人の意思確認は不要です。
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後見の手続きと並行して、金額だけは先に押さえておいてください。

